2018年8月、国土交通省や総務省などの中央省庁が、義務付けられた障がい者の雇用割合を42年間にわたり水増しし、定められた目標を大幅に下回る実態を隠していたことがわかった。

また同様に、障害者手帳や診断書などを確認せず、雇用率に算入していた県が28県にのぼることが発覚した各自治体・中央省庁の「障害者雇用水増し問題」について、 今の日本の社会に内在する問題であると同時にさいたま市政の施策に直結する問題であるとして、全国の障害当事者議員や心ある人びとで構成される「障害者の自立と政治参加をすすめるネットワーク」のメンバーとともに行動、事態の推移を注視しています。

東京新聞2018年8月22日
「障害者働く場 奪われた」 水増し 数千人規模
中央省庁が雇用する障害者数を水増ししていた問題で、国のガイドライン(指針)に反して昨年の雇用者に算入していた人数が各行政機関合わせて数千人規模に上ることが分かった。水増し分を除いた実際の雇用率が0%台になる省庁が複数あることも判明。財務省や経済産業省が水増ししていたことや、法務省と気象庁でも障害者手帳などを確認せずに雇用率に算入していた疑いが判明し、計七省庁に拡大した。
 複数の政府関係者が二十一日、明らかにした。厚生労働省は一部で法定雇用率達成のために意図的に不正が行われた疑いもあるとみて調べている。
 静岡県なども二十一日、指針違反を発表し、都道府県では計十県となった。
 厚労省は、各省庁など国の三十三行政機関で計約六千九百人の障害者を昨年雇用していたと発表したが、数千人規模の雇用を事実上、偽っていたことになる。障害者団体が「障害者の雇用の機会が奪われた」と反発するなど、制度に対する信頼が揺らいでいる。
 複数の関係者によると、指針の理解不足によるミスとみられるケースもあるが、一つの省庁だけで数百人を算入していた例も複数あった。0%台の省庁も少なくなく、各省庁の人数を積み上げると「影響人員は数千人規模になる」(政府関係者)という。
 障害者雇用促進法は一定割合の障害者雇用を義務付けている。厚労省が毎年六月の雇用状況の報告を求めている。

2018年8月24日朝日新聞
障害者雇用、28県で不適切処理 証明書類確認せず算入
障害者の法定雇用率を中央省庁が水増しした疑いがある問題を受け、朝日新聞が22、23日に47都道府県(教育委員会などを含む)の状況を調べたところ、半数以上の28県で障害者手帳などの証明書類を確認していない職員を雇用率に不適切に算入していたことがわかった。大半が、対象者を具体的に定める厚生労働省のガイドラインの理解不足を理由としている。
  国や地方自治体、企業は、障害者雇用促進法で従業員の一定割合(法定雇用率)以上の障害者を雇用する義務がある。ガイドラインは、算入できる対象を身体障害者手帳や知的障害者の療育手帳の交付を受けている人などと定める。身体障害者は手帳がなくても認められる例外があるが、都道府県知事の指定医か産業医の診断書などが必要になる。
  今回の調査は都道府県の知事部局と教育委員会を対象とし、警察本部は発表分を加えて集計した。その結果、この三つのいずれかで手帳などの証明書類の確認をしていなかったのは28県あった。7県が「調査中」と回答し、12都道府県は不適切な算入はなかったとした。
  23日に発表した茨城県は、2017年度時点で知事部局や教育庁などで436人を算入していたが、このうち118人がガイドラインで求められている手帳などの確認をしていなかった。すべて採用後に障害を持ってから算入された職員で、本人からの届け出がないまま算入したケースもあった。30年近く前から続いていたという。担当者は「認識不足だった。水増しの意図はない」と説明した。
  長野県も同日、今年6月時点で算入していた99人のうち11人が未確認だったと公表。担当者は「ガイドラインへの認識が甘かった。(障害者)手帳を取って下さいとは言いにくかった」と話す。
  石川県と同県教委も、障害者手帳や診断書を確認せず、本人の自己申告をもとに算入していた。手帳のない人などを除くと、昨年6月時点の雇用率は当初の公表値2・41%から1・41%に、県教委が2・19%から1・45%に下がり、それぞれ当時の法定雇用率の2・3%と2・2%を大幅に下回る。
  島根県では身体障害者に限った採用試験の合格者については採用時に手帳を確認していたが、ほかの職員には毎年11月に全職員が提出する「自己申告書」をもとに算入していた。長崎県では、自己申告書の病歴欄や、病気休暇などの申請に使う指定医や産業医ではない医師の診断書をもとに算入していたという。

■環境省も水増しの疑い

 また、中央省庁では環境省で水増しの疑いがあったことが23日、関係者への取材で新たにわかった。これで、農林水産、総務、国土交通、防衛、法務を加えた計6省で水増しの可能性があることになった。国交省では昨年6月時点で雇用していた890人の障害者のうち、半数以上が障害者手帳を持っていないとみられるという。中央省庁での水増しは千人規模になる可能性がある。

■障害者手帳や診断書などを確認せず、雇用率に算入していた28県

 青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島、茨城、栃木、埼玉、千葉、富山、石川、福井、長野、静岡、兵庫、奈良、島根、広島、徳島、香川、愛媛、高知、佐賀、長崎、熊本、宮崎、沖縄

※朝日新聞が各都道府県と教育委員会を取材。県警は発表分のみ含む。三つのいずれかで明らかになった都道府県を集計

要請書を提出

2018年8月24日には、厚生労働省に出向き、この問題は「障害者雇用促進法や法定雇用率の制度への信頼を根本的に崩壊させている。障害当事者たちの夢と希望と期待を裏切るものだ」として徹底調査と障害者雇用促進を求める抗議・要請文を提出しました。

共生社会が遠のいていく‟障害者雇用水増し事件”

障害者の自立と政治参加をすすめるネットワーク代表
さいたま市議会議員 伝田ひろみ

ヒアリングを聞いて

 「障害者雇用省庁水増し」~義務化当初から42年~ 衝撃的な見出しで始まった報道をきっかけに、この水増し事件は中央から地方自治体へと広がっていきました。怒りを通り越してあきれるばかりです。報道があった8月17日、私が代表をつとめる「障害者の自立と政治参加をすすめるネットワーク」として対応が必要と判断し、事務局で抗議行動の検討に入りました。何人かの国会議員を通し、野党合同ヒアリングの場にも参加できるよう準備をし、ヒアリング当日8月24日に厚労省に対する要請書とマスコミに対する声明を発表し、①徹底調査と➁実効性のある対策を求めました。省庁の役人と国会議員とのやり取りを目の前で見聞きするのは初めてでしたが、とにかく役人たちは障害者のことを実は何も解ってはいないのではないかというのが第一印象でした。確かにこれでは障害者が社会の一員として当たり前に生きていく施策にはつながらないだろうと思います。

 厚労大臣は対応策として「今年中に法定雇用率に満たない人数を雇用するよう努力してもらう」と記者会見で発表したらしいですが、とんでもありません。3500人余りの障害者をしかも今年中に雇用するなどという非現実的な展開はあり得ません。今の政府・省庁には障害者を雇用し、共に働く土壌も経験もありません。経験もノウハウもない現状のまま、多数の障害者を採用したところで、障害当事者も職場の仲間も混乱し苦労することは明らかです。単なる数合わせをしないでほしい。これが今現在の切実な思いです。

水増し事件はなぜ起こったのか

 では、なぜこのような水増し事件が起こってしまったのでしょうか。厚労省が定めたガイドラインの読み違えというような釈明はヒアリングの際にも聞きました。確かに「原則として手帳の提示」という文言の「原則として」を自分たちが都合良く解釈してしまったのでしょう。ガイドラインを作った厚労省も、「原則として」とあるのを幸いに都合よく解釈してしまった他の省庁も、障害者はよくわからない、いっしょに仕事をするイメージすら思い浮かばないといった意識が根底にはあるのでしょう。権利条約を批准し、差別解消法が制定され、同じような条例も地方自治体で次々と誕生し、政府が音頭を取って「共生社会の実現」が謳われているまさにこの時期にこのような大事件が起こってしまったことは全く残念でなりません。

事件を契機として

 この現実をしっかりと受け止め、さて、これからです。政府は第三者委員会を立ち上げたようですが、障害当事者は入っていません。ヒアリングの場でも多くの障害者団体が当事者参画を求めたのにその声は反映されませんでした。地方自治体では当たり前の「障害者枠」を新たに設けることはあるかもしれません。しかし、その枠内に入るのはほとんどが身体障害者のみであり、自力通勤、介助者なしという条件を付けている自治体がほとんどです。国は先ずすべての障害者を対象にし、通勤や介助の問題をどうするか民間や先進自治体の意見を参考にしながら即刻検討すべきです。経済活動を伴うことには福祉の制度は使えないなどという仕組みの矛盾にすぐに突き当たるはずです。そして障害者を知らないということはどういうことなのか。小さいころからいっしょに学び遊ぶ環境がないことにそもそもその原因があることを文科省は気付くべきです。

 この大事件を契機として中央も地方も障害者雇用のあるべき姿を真摯に追及していっていただきたいと思います。そのあるべき姿が実現した時にこそ民間にペナルティを求めることもできるのではないでしょうか。